しとしとと細い雨が降り続く夜、更けゆく町並みに行灯の明かりだけがやわらかく灯っています。石畳には雨水がうっすらと溜まり、揺れる光を映し返しながら、奥へ奥へと視線を誘います。その真ん中を、一本の和傘を差した着物姿の女性が静かに歩いていきます。

彼女がまとっているのは、白地にさりげない草花模様の着物と、深い藍色の羽織。雨粒が袖口にきらりと光り、落ち着いた色合いの中にしっとりとした艶やかさを生んでいます。髪はきっちりと結い上げられ、白い花飾りと金色のかんざしが夜の闇の中でほのかに輝き、凜とした横顔をいっそう引き立てます。
手には和傘、腰には一本の刀。線の細い体つきでありながら、その所作のひとつひとつからは、揺るぎない覚悟と静かな強さが感じられます。町を守る剣士なのか、それとも大切な誰かのもとへ向かう途中なのか──表情は穏やかですが、どこか決意を秘めたまなざしが、見る人にさまざまな物語を想像させてくれます。
頭上には丸い満月が浮かび、薄い雨の帳ごしに青白い光を降り注いでいます。行灯のあたたかな橙と、月光の冷たい青。その二つの光が交差する中で、女性の姿はまるで一枚の絵巻物から抜け出したヒロインのよう。路地の奥から立ちのぼる湯気のような靄が、現実と幻想の境界線をあいまいにし、この瞬間が夢か現か分からなくなっていきます。
雨音、草履が石畳を踏むわずかな音、そして遠くで軋む戸の気配。そんな静かな音だけが響く夜更けの町で、和傘の剣士はただひとり、月に見守られながら歩みを進めていきます。このイラストは、和の情緒とファンタジーが溶け合う“雨夜の物語”を切り取った一枚です。


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